イソフラボンのチカラIsoflavone

がん対策にも光が…広がるイソフラボンの効用

日本人の死因の第1位は、がん。1981年にトップになってから、現在でもカーブは上昇し続けています。
このがんの予防にも、様々な研究の結果、イソフラボンの有効性が多数報告されています。その一部をご紹介しましょう。

「イソフラボン摂取量が多いほど、乳がん発生率が低い」
[疫学調査] 厚労省研究班が2万人を10年間追跡した研究で証明

閉経後女性におけるイソフラボン摂取量と乳癌発生率

日本の厚生労働省研究班による疫学調査で、2万人を10年間にわたって追跡した調査結果が発表されました。1990年から10年間、岩手、秋田、長野、沖縄の40~59歳の女性21,852人を追跡調査したという大規模な調査です。
それによると、大豆食品の摂取量の多さで4群に分けたグループを追跡調査した結果、イソフラボン摂取量が多いほど乳がん発生率が低いという関係が確認されました。
全女性では、1日にみそ汁を3杯以上飲む人達の乳がん発生率は1日1杯飲むか飲まないかのグループより40%減少してることが分かりました。また閉経後女性に限ってみると最もイソフラボン摂取量の多い人達では最少摂取群の約30%の発生率に留まっていて、イソフラボンをたくさん食べれば食べるほど、乳がんになりにくい傾向がより顕著に見られました。
これらの値は、乳がんに関連する他の因子(初潮年齢や妊娠回数など)の影響を取り除いて計算されたものです。
この研究は世界で初めて前向きコホート研究※で大豆製品やイソフラボンと乳がん発生率減少との関係を示した研究として世界の注目を集めました。

(Journal of the National Cancer Institute, Vol.95. No. 12, 906-913 ; 2003)

[疫学調査]「イソフラボンをたくさん摂る地域は、乳がん死亡率が低い」
世界的調査でも証明

乳がんの年齢調整死亡率

大豆食地域、つまりイソフラボン摂取量が多い地域ほど乳がん死亡率が低いという研究は、世界的な疫学的調査でも明らかにされています。WHO CARDIAC Study実施地域のうち、年齢調整死亡率が明らかな9ヶ国11地域を選んで乳がんによる死亡率とイソフラボン摂取量(24時間の採尿を行って尿中イソフラボン量を測定)の相関関係を調べました。結果はグラフのように「イソフラボン摂取量が多いほど乳がん死亡率が低い」という逆相関関係が確かめられました。
大豆食の習慣がないイギリスが高く、大豆食地域の日本や中国が低いことが分かります。

(3rd Int. Soybean Processing and Utilization Conference ; 2000)


同じようにして、9ヶ国10地域での「全がん」の年齢調整死亡率と24時間尿中イソフラボン量(女性)の相関関係を調べた結果でも、同様の「逆相関関係」が確かめられています。


イソフラボンは「植物性エストロゲン」といわれるのに、なぜ?

[疫学調査]イソフラボン摂取量が多い地域は前立腺がん死亡率が低い

イソフラボン摂取と前立腺がん死亡率

イソフラボンは女性のがんばかりでなく、男性特有のがんにも有効という報告が相次いでいます。
前立腺がんは近年世界的に増加傾向にあり、日本でも急増中ですが、これもイソフラボンの摂取で進行が抑えられる可能性が見えてきました。先の乳がん死亡率と同様の疫学調査で、WHO CARDIAC Study 実施地域のうち、年齢調整死亡率が分かっている8ヶ国10地域の方々の協力を得て24時間尿中イソフラボン量を測定、その結果と死亡率の相関関係を調べた研究では、イソフラボン摂取量が多い地域ほど前立腺がん死亡率が少ないことが報告されています。

(WHO Collaborating Center for Research 'SALVEO' Vol. 18, 16-32 ; 2003)

がんができても、進行を抑える

前立腺がんの頻度

男性の前立腺には、治療の必要がない微少ながんが加齢と共に増加することが知られています(潜在がん)。その発生自体はどの国の人もさほど違わないのに、がんが進行して臨床的に発見される例は欧米人の方が10倍も多いとされ、「大豆を食べているかどうか」、食生活の違いが原因ではと指摘されています。
前立腺がんは、いわゆるホルモン依存性のがんですが、女性ホルモン様作用をもつイソフラボンを摂っているために、男性ホルモンの過剰な働きを抑え、前立腺がんができにくく、できても進行が抑制されていると考えられているのです。

[疫学調査]イソフラボン摂取量が多い人達は、胃がん死亡の危険度が半分に低くなる

イソフラボンは、乳がんや前立腺がんのようないわゆるホルモン依存性のがんばかりでなく、
胃がんにも有効であることが証明されています。

大豆イソフラボン摂取と胃がん死亡率の関連

岐阜大学医学部が行った「高山コホート」と呼ばれる研究は、岐阜県高山市の市民3万人を対象に長期間追跡するという大規模なものでした。
前向きコホート研究※とは、まだ病気になっていない人達を対象にスタートします。
この調査では、大豆食品の摂取量を調査した上で、7年間の追跡を行っています。
具体的には、1992年に調査を開始して、7年後の1999年に、どういう食生活の人が胃がん死されたかを追跡し、その相関関係を分析した研究です(もちろん胃がんに影響・干渉する他の要因も計算し、それを除いて検討されます)。
大豆食品の摂取状況からイソフラボン摂取量を計算、摂取量を低・中・高の3グループに分けて、胃がん死との関連を検討した結果、イソフラボン摂取量が低いグループの胃がん死亡者数を1とした場合、高摂取グループでは相対危険度がおよそ0.6足らず(男性0.63、女性0.54)となり、胃がん死の危険度はざっと半分近くに下がるという結果が報告されたのです。

(Br J Cancer, 87(1), 31-36: 2002)

[細胞実験]イソフラボンが、環境ホルモン作用を抑制

環境ホルモン作用抑制効果

私達は京都大学との共同研究でイソフラボンがいわゆる環境ホルモン(内分泌攪乱物質)の作用を抑制することを実験で確かめています。
環境ホルモンは動物体内のホルモン作用を乱すといわれ、がんや生殖機能低下との因果関係が指摘されています。私達は、イソフラボンと環境ホルモンが共存したときに、乳がんの場合と同様にイソフラボンが先にレセプター(受容体)と結合することで環境ホルモンの影響を抑える働きがあるのではないかと考え、細胞レベルの実験でその仮説を実証したのです。
乳がん細胞にノニルフェノール(NP)だけを添加した場合は、乳がん細胞は増殖します(イソフラボン添加量=0)。ところが、NPと同時にイソフラボンを添加した場合、乳がん細胞の増殖は抑えられ、20μmolではNP無添加近くまで増殖が抑制されました(104%)。
また同様に、イソフラボンを加えるとことでがん細胞の増殖促進効果をうち消す傾向を、他の内分泌攪乱物質「ビスフェノールA」でも観察しています。

(3rd Int. Soybean Processing and Utilization Conference ; 2000)

※前向きコホート研究とは

疫学研究には、様々な手法がありますが、ある地域の住民など、大きな集団を長期間追跡する調査方法を「コホート研究」といいます(cohort;隊、団、グループ)。
「前向きコホート研究」とは、まだ病気になっていない健康な人達を対象にスタートして食生活や生活習慣などを調査した上で、その集団を「前向き」に追跡調査して病気になった人を確認し、先に調べた要因が健康(や発病)にどう結びついたかを調査する方法です。
これとは逆に、既に病気になった人を対象に、その人達と性別や年齢の揃った健康人と両者の生活習慣の違いなどを調査して、何がその病気の誘因になったかを調べることを指して「後ろ向き調査」といいます。

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